世間では「AI革命」「AIが仕事を奪う」といった言葉が飛び交い、連日のように新しいAIツールのニュースが報じられています。しかし、クリエイティブの最前線にいる人々の中には、今のAIブームに対して冷静、あるいは懐疑的な視点を持っている人も少なくありません。
今回ご紹介するのは、まさにそうした「AI懐疑派」でありながらも、ChatGPTの有料プラン(Plus)に毎月3000円を課金し続けている一人の動画クリエイターの実践術です。彼は断言します。「現時点でAIが人間のクリエイティビティを完全に代替することは不可能だ」と。
では、なぜ彼は課金を続けるのか。それは、AIを「クリエイター」としてではなく、優秀な「アシスタント」や「事務処理係」として割り切って使っているからです。本記事では、AIの過熱感に一歩引いた視点を持つ彼だからこそ辿り着いた、今日から使える「地味だけど超実用的」なChatGPT活用術5選を詳細に解説します。
【画像生成】AIには「100点」を求めない!
生成AIの画像作成機能というと、「AIだけで架空のモデルを生成する」「全く新しい芸術作品を作る」といった派手な使い方が注目されがちですが、実務においてはもっと「補助的」な使い方が効果を発揮します。
フリー素材探しで浪費する時間をゼロにする
例えば、動画のサムネイル画像や資料作成のシーンを考えてみましょう。メインとなる被写体(自分自身や紹介する商品など)は実写撮影するのが基本ですが、「背景」にどうしても適切なイメージ画像が欲しくなる時があります。
これをフリー素材サイトで探そうとすると、「古着屋 店内 おしゃれ」などで検索しても、イメージ通りの画角や雰囲気のものが見つからず、何十分も時間を浪費してしまうことがよくあります。既存の素材サイトでは「帯に短し襷に長し」な状況に陥りやすく、クリエイティブの本質ではない部分で時間を消費してしまうのです。
「1発OK」は狙わない。対話で画像を修正していくコツ
ここでChatGPT(DALL-E 3)の出番です。今回の事例では、サブチャンネルのテーマに合わせて「古着がずらっと並んでいる店内のイメージ画像」を生成させています。
ポイントは、AIが出してきた最初の画像が完璧でなくても良いという点です。最初は「古着屋」というよりは「ただのクローゼット」のような画像が出てきても、「もっと古着特有のヴィンテージ感を出して」「画角を横長(16:9)にして」「迷彩柄の服をいくつか混ぜて」といった具体的な修正指示(プロンプト)を重ねていきます。このように対話形式で微調整を繰り返すことで、ものの数分で理想に近い素材を作り出すことができます。
「主役」ではなく「背景」として割り切る重要性
こうして生成された画像は、そのまま主役として使うには多少の不自然さが残るかもしれません。しかし、サムネイルの「背景」として配置し、さらに少し「ぼかし」を入れるなどの加工を施せば、AI特有の違和感は完全に消え去ります。
視聴者や読者が注目するのはあくまで手前の「主役」であり、背景は雰囲気を伝えるための補助的な役割で十分です。「主役は人間、背景はAI」という明確な割り切りこそが、違和感なくクオリティを底上げする、クリエイティブワークにおけるAI画像の最適解と言えるでしょう。
【SNS検索活用】公式アプリの検索弱点をカバー!
SNSを利用していて、「数年前に見たあの投稿、何だったっけ?」と思い出すものの、見つけられずに諦めた経験はないでしょうか。アプリ標準の検索機能だけでは対応しきれない課題を、AIが解決します。
「いつかのあの投稿」が見つからないストレス
Instagramのアプリ内検索機能は、ハッシュタグやユーザー検索には強くても、投稿内の文章(キャプション)に対する全文検索能力は決して高くありません。「確か財布について書いていたはず」「去年の冬頃だったはず」といった曖昧な情報で検索しても、過去の投稿がタイムラインの海に埋もれてしまい、事実上の「検索不可能」状態になっていることは多々あります。
AIならキャプションやタグも含めて「全投稿」を精査可能
この「検索性の低さ」を解決するために、ChatGPTをデータベース検索エンジンのように活用します。今回のクリエイターは、自身の会社のInstagramアカウントから「過去に投稿した特定の財布(製品名:PRESSo)」に関する情報をすべて洗い出すよう指示しました。
具体的には、「このアカウントの投稿の中から、『PRESSo』という語句が含まれている投稿を古い順に5つピックアップして」と依頼します。AIはキャプション(テキスト情報)やハッシュタグを高い精度で読み取り、人間が数年分の投稿を手動でスクロールする何百倍もの速さで該当の投稿をリストアップしてくれます。
商品リサーチや競合調査における強力な武器になる
さらに「それぞれの投稿のURLも併記して」と指示を出せば、ChatGPTの回答からワンタップで実際の投稿へ飛ぶことができます。
これは自分の過去投稿の整理だけでなく、例えば気になっているブランドのアカウントから「セール情報だけを過去数年分抽出して傾向を見る」「特定の商品の変遷を追う」といった使い方も可能です。検索機能が弱いプラットフォームほど、ChatGPTを介して検索することのメリットは大きくなります。
【画像認識と計算】スクショを送るだけで集計完了!
「複数の商品の合計金額を知りたい」という単純な作業でも、数が増えればミスが起きやすくなります。この「転記と計算」というロボット的な作業こそ、AIに任せるべき筆頭です。
商品写真と価格の「転記作業」は人間がやる仕事ではない
動画クリエイターは、海外から古着を仕入れる業務においてChatGPTの画像認識(マルチモーダル)機能を活用しています。仕入れ先から送られてくる大量の「価格付き商品画像」を見て、電卓を叩くのは二度手間の極みです。
ChatGPTを使えば、それらの画像をまとめてアップロードし、「画像の中に書かれている商品の価格をすべて読み取って、合計金額を計算してください」と指示するだけで完結します。人間は数字を目で追いかける必要すらありません。
「売り切れは除外」複雑な条件も画像から判断できる
驚くべきはその応用力の広さです。単に数字を足すだけでなく、画像の中に「Sold Out(売り切れ)」という文字やスタンプがある場合、「売り切れのものは除外して計算して」と指示すれば、文脈を理解して計算から省いてくれます。
また、通貨がユーロ表記であっても、「全てを現在のレートで日本円に換算して」や「合計金額から交渉で10%オフになったらいくら?」といったシミュレーションも対話の中で行えます。電卓では不可能な「文脈を持った計算」ができるのがAIの強みです。
経理から家計簿まで、あらゆる「数字画像」に応用可能
これを人間がやれば、目視確認、入力、計算、検算と何段階もの工程が必要で、そのたびにミスが誘発されます。AIに任せることで、ヒューマンエラーを物理的にゼロにできます。
このテクニックは仕入れ業務に限りません。例えば「レシートを並べて撮影して家計簿をつける」「手書きの請求書の束を合計する」など、あらゆる「画像化された数字」を扱うシーンで即座に応用できる、極めて実用的なライフハックです。
【メール作成支援】移動中のスマホ入力を極限まで効率化!
クリエイターに限らず、ビジネスパーソンにとって永遠の課題である「メール返信」。特に移動中のスマートフォン操作は、丁寧な文章を作るには最も不向きな環境です。
フリック入力での長文ビジネスメールは苦痛でしかない
外出先で重要なメールを受け取った時、多くの人は「オフィスに戻ってPCから返そう」と後回しにしがちです。フリック入力で「お世話になっております」から始まる長文を打つのは非効率だからです。
しかし、後回しにすればするほどタスクは溜まり、返信が遅れることで相手への心象も悪くなるという悪循環に陥ります。
「断りの連絡」こそAIに。精神的コストを下げる活用法
この課題に対し、彼は「メール返信の代筆」を完全にAIに任せています。特に効果的なのが、気乗りしない「お断り」のメールです。
例えば、条件に合わない案件依頼が来た際、AIに「今回は報酬が発生しないようなのでお断りしたい。丁重な辞退メールを作って」と指示します。するとAIは、時候の挨拶や相手への感謝、クッション言葉を適切に配置し、角が立たない完璧なビジネスメールを一瞬で生成してくれます。
自分は「指示出し」に徹し、脳のリソースを守る
機密情報への配慮は必要ですが、一般的な問い合わせや日程調整、お断りの連絡などはAIで十分対応可能です。
「文章を一から考える」というプロセスを捨て、「意図(結論)だけを伝える」という上司のようなポジションに徹すること。これによって、移動時間などのスキマ時間を生産的な業務処理時間に変えることができ、本来注力すべきクリエイティブな思考に使う脳のリソースを守ることができるのです。
【Deep Research】人間には不可能なレベルで徹底調査!
最後は、最近実装された「Deep Research(ディープリサーチ)」機能の活用です。AIが自律的に複数のウェブサイトを巡回・調査するこの機能は、従来の手作業での検索(ググる行為)を過去のものにする可能性を秘めています。
「公式にも載っていない」ニッチな仕様を調べる難しさ
動画では、「ソニーのカメラの中で『S-Cinetone』という特定機能が使えるモデルを全網羅したい」というニッチな調査事例が紹介されました。これはメーカーの公式サイトを見ても「現行の最新機種」の情報しか載っていないことが多く、過去の機種まで含めた対応状況を調べるには、各機種のスペック表やファームウェアのアップデート情報を一つ一つ確認する必要があります。
人間がやれば、数時間はかかる泥臭いリサーチ作業です。
海外のPDF資料まで読み込む「執念」のリサーチ力
彼はこの調査をDeep Researchに依頼しました。するとAIは数分間かけてネット上の膨大な情報をクロールし続けました。驚くべきは、日本のサイトだけでなく、香港のプレスリリースや技術的なPDF資料まで読み込み、情報の裏付けを取りに行っている点です。
通常の検索ではトップページに出てこないような「PDFの中の1行」に書かれた情報まで拾い上げることができるのは、AIならではの圧倒的な処理能力と言えます。
ソース元の明記が「ハルシネーション」への対抗策になる
Deep Researchの最大のメリットは、「どの情報を根拠にしたか」がリンク付きで明記されることです。AIの回答には嘘(ハルシネーション)のリスクがつきまといますが、出典が明確であれば人間が最終確認(ダブルチェック)をすることも容易です。
時間をかけて情報を集める「調査」のフェーズはAIに任せ、人間は「集まった情報を元に意思決定する」フェーズに集中する。これこそが、情報過多な現代における最も賢いリサーチ手法なのです。
まとめ
今回ご紹介した5つの活用法に共通しているのは、「AIにクリエイティビティ(創造性)を求めない」という姿勢です。
動画クリエイターとしての企画立案や、視聴者の心を動かすメッセージといった「核」となる部分は、あくまで人間自身の経験と脳みそで考える。一方で、そのアイデアを形にする過程で発生する「素材探し」「過去情報の検索」「単純計算」「定型的なメール返信」「スペック調査」といった付帯業務(=面倒くさい作業)に関しては、徹底的にAIに任せて効率化を図る。
この明確な線引きこそが、AI時代におけるクリエイターの賢い生存戦略と言えるのではないでしょうか。
多くの人が「AIで何かすごいことをしよう」として挫折してしまいますが、実はAIの本質的な価値は、私たちの日常に潜む「地味なストレス」を解消してくれる点にあります。「AI懐疑派」の方こそ、まずはこうした「優秀な事務アシスタント」としての側面から、AIとの付き合い方を始めてみてはいかがでしょうか。

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